出典:海上自衛隊ホームページ
2020年11月19日、3,900トン級新型護衛艦「もがみ」型の2番艦「くまの」が三井E&S造船玉野艦船工場(岡山県)で進水し、2022年3月22日に就役した。
1番艦「もがみ」は、ガスタービンエンジンの試験稼働中、脱落した部品をエンジンが吸い込むトラブルにより建造が遅延したため、2022年4月28日に就役した。
フリゲート艦(FF)に機雷掃海機能(mine sweeping)を付加した多用途艦(Multi-function)であることから「FFM」(艦種記号)で呼ばれている。
防衛省は島嶼防衛のための、この3,900トン級新型護衛艦(コンパクト艦)を2018年度(平成30年)から4年間で8隻建造する方針で、最終的には2037年までに合計22隻を建造する予定。
防衛装備庁は、新型小型護衛艦の主事業者に「三菱重工」、下請けに「三井E&S造船」を選定している。
- 1番艦「もがみ」は、三菱重工長崎造船所(長崎県)で2021年3月3日に進水し、2022年4月28日に就役した。
- 2番艦「くまの」は、三井E&S造船玉野艦船工場(岡山県)で2020年11月19日進水し2022年3月22日に就役した。
- 3番艦、4番艦、は三菱重工長崎造船所(長崎県)で2020年度に起工し2023年3月に引渡し予定。
1隻当たりの建造費は約500億円で、5,000トン級護衛艦の建造費700億円よりも低コストとなる。
3,900トン級新型護衛艦(くまの)の仕様
性能・諸元 | くまの(30FFM)3,900トン級新型護衛艦 | あぶくま型護衛艦 |
基準排水量 | 3,900トン | 2,000トン |
満載排水量 | 5,500トン | 2,500トン |
全長 | 133.0m | 109m |
全幅 | 16.3m | 13.4m |
深さ | 9.0m | 7.7m |
喫水 | 4.7m | 3.8m |
主機関 | CODAG式(ガスタービン1基+ディーゼル2基)/2軸 | ガスタービン2基+ディーゼル2基/2軸 |
馬力 | 70,000馬力 | 27,000馬力 |
速力 | 約30ノット(時速55km)以上 | 27ノット(時速50km) |
乗員 | 約90人 | 120人 |
航続距離 | 約10,400km(18ノット巡航) | |
ステルス性 | 有り | 無し |
艦載機 | SH-60K哨戒ヘリコプター1機 | 無し |
引用 三井E&S造船 https://www.mes.co.jp/press/2020/1119_001509.html
小型護衛艦の統合
コンパクト護衛艦(3,900トン級30FFM)は、あぶくま型(基準排水量2,000トン)、あさぎり型(基準排水量3,500トン)、はつゆき型(基準排水量3,000トン)、ミサイル艇、掃海艦を代替する計画もあった。
しかし、当初3,000トンの計画が3,900トンと大型化したため、すべての艦艇を代替するのは事実上不可能と思われる。
2037年頃の護衛艦編成(予想)
艦型 | 隻数 | ||
護衛艦 | イージス艦・ミニイージス艦など(DD/DG)5,000トン~8,000トン | 32隻 | 54隻(現在は48隻) |
3,900トン級護衛艦(FFM) | 22隻 | ||
小型艦艇(MSO 掃海艦) | 12隻 | ||
合計 | 64隻 |
30FFM建造の背景
- この3,900トン級護衛艦30FFMは、アメリカ軍の戦術の変化が影響している。
- 冷戦時代、アメリカは、原子力空母を攻撃力の中心とし、その空母を防衛するイージス艦などからなる「空母打撃群」を主力部隊としていた。
- しかし、現在では、超大国の空母機動部隊同士の大規模な軍事衝突の可能性は低くなった。
- もちろん、将来的には米中の大規模な軍事衝突の可能性はあるが、仮に中国の空母打撃軍がアメリカの脅威となるとしても10年以上先の話だ。
- 現時点では、むしろ、クリミア紛争のような小規模な地域紛争、領土争いが発生する可能性が高い。
- 日本周辺海域においては中国軍による尖閣列島侵攻が懸念される。尖閣列島のような島嶼(とうしょ)防衛には3,900トン級の小型護衛艦が適している。
- というのは、島嶼海域は浅く入り組んだ海域のため大型の護衛艦では自由に航行できない可能性があるからだ。
- また7,000トン級のイージス艦は7隻(2021年3月に8隻)しかなく、多くの島嶼を防衛するには隻数が足りない。
- さらに、イージス艦の主要任務の一つは弾道ミサイル防衛で、島嶼(とうしょ)防衛のために、沖縄の先島諸島に常時イージス艦を配備するのは非効率だ。
- つまり30FFM護衛艦の目的は「中国軍の日本領海、島嶼部への接近阻止」と「中国軍が上陸した場合の島嶼奪還」で、オスプレイV-22や水陸両用車AAV7ととも尖閣防衛の任務に就くものと考えられる。
- 2037年までに3,900トン級護衛艦を合計22隻を建造し、中国海軍から尖閣列島を防衛する方針と思われる。
データリンクによる戦闘形態の変化
- 米海軍では、個艦同士のデータリンクが高度化したことにより、攻撃力を空母のみに頼るのではなく、個艦が独自に攻撃力を持つ「武器分散システム」が有力となってきた。
- 日本の自衛隊もアメリカの戦術変化の影響を受け、イージズ艦(7,000トン)、あさひ型護衛艦(5,000トン)と兵器分散システム体系に沿って護衛艦の構成を変化させてきた。
- その完成形が3,900トン級新型護衛艦30FFM構想と言える。
- つまり、大型護衛艦に弾道ミサイル迎撃、対空ミサイル、対潜水艦アスロックなどすべてを詰め込むのではなく、小型護衛艦(30FFM)に分散して搭載し、ネットワークで情報共有して2隻~3隻があたかも1隻のように連動して戦うことになる。
- 小型護衛艦(30FFM)が水深の浅い島嶼部に展開し、後方に待機する「イージス艦」とデータリンクし、中国艦艇をイージス艦のミサイルで攻撃できるようになる。
自衛隊の島嶼(とうしょ)防衛の考え方
- 自衛隊は尖閣列島に部隊を配備していない以上、初戦で中国軍が尖閣に上陸することはやむを得ないと考えている。
- 自衛隊の戦略は、中国の兵法の「空城の計(くうじょうのけい)」と言うべきものだ。
- (わざと)中国軍に尖閣に上陸させた後、中国軍を攻撃、尖閣列島を奪還する作戦を想定している。
- 局地戦とは言え、中国海軍が日本の自衛隊に負けた場合、日露戦争で日本に負けたロシアのように中国の習近平政権は崩壊し、中国全土が内戦状態になるかもしれない。
- 日本の自衛隊は尖閣列島の奪還に成功した場合、自衛隊が尖閣に常駐し、軍事基地化することを計画していると思われる。
- さらに尖閣列島の基地を日米共同運用とし「対空ミサイル」「対艦ミサイル」を配備すると、中国が台湾に侵攻することは事実上不可能となる。
- つまり、尖閣列島は単なる無人島ではなく、中国の台湾侵攻、海洋進出する際に最も重要な島と言える。アメリカにとっても尖閣列島に日米共同基地を設置すれば、中国を簡単に封じ込める最も重要な島と言える。
水陸両用上陸作戦総合訓練「ドーン・ブリッツ」
2013年にはアメリカで実施されてた水陸両用上陸作戦総合訓練「ドーン・ブリッツ」に自衛隊も参加している。また、2015年にも自衛隊はこの「ドーン・ブリッツ」に2回目の参加をした。
演習に参加した自衛隊装備品
- 陸上自衛隊 Ch-47JA AH-64D
- 海上自衛隊 護衛艦ひゅうが(DDH-181)、護衛艦あしがら(DDG-178)、輸送艦くにさき(LST-4003)、艦載ヘリSH-60
この訓練は、中国軍が尖閣列島に上陸した後、尖閣列島を奪還する訓練とされている。
海上自衛隊の護衛艦編成
型式 | 基準排水量 | 満載排水量 | 建造費 | 概要 |
まや型 | 8,200トン | 10,250トン | 1,700億円 | イージス艦 |
あさひ型 | 5,100トン | 6,800トン | 700億円 | ミニイージス艦 |
30FFM(くまの) | 3,900トン | 5,500トン | 500億円 | 島しょ防衛・多機能護衛艦 |