まず、一般的な潜水艦はどれくらい潜航できるのか?
中国海軍など多くの国が採用しているロシア製「キロ級潜水艦」の潜航深度は運用時で水深240m、最深で水深300mとされる。
海上自衛隊の潜水艦の潜航深度は公表されていないが、海上自衛隊の潜水艦救難艦「ちはや」の水中作業員の飽和潜水深度は450mと公表されている。
さらに海上自衛隊は深海救難艇(DSRV)や無人潜水艇(ROV)を保有しているが、これらの耐圧深度は1,000m以上とされる。
また海上自衛隊が保有する潜水艦発射89式魚雷の最大深度は900mとされる。
さらに、そうりゅう型潜水艦には溶接可能な鋼材としては世界最高水準である「NS110鋼材」(耐力110㎏f/mm)が使用されている。これは計算上、水深1,000mの水圧にも耐えられる。
当ブログでは「そうりゅう型」潜水艦の潜航深度は運用時650m、最深900mと予想している。
海上自衛隊出身のyoutuberも「水深600m~900m、個人的には1,000mも可能と思う」と発言している。
もちろん、海上自衛隊員でも潜水艦の潜航深度は正確には知らされていないが、元海上自衛隊員の推測は大いに参考になると思う。
また、潜水艦のハッチの厚さで潜航深度が分かると言われていて、潜水艦の入港時にはハッチにカバーがかけられている。しかし、これは21世紀でも通用するかどうかは疑問。
ちなみに、そうりゅう型潜水艦のハッチの厚さは約30cmと思われる。
某youtuberは潜水艦の待ち伏せ攻撃を「単なる機雷」と言って否定しているが、それは大きな間違い。
戦後、長らく日本の潜水艦は16隻しかなかった。たった16隻で日本列島全体を防衛することは不可能なので、海峡(チョークポイント)で待ち伏せ攻撃するしかない。
さらに水上艦艇、例えばイージス艦「あたご」の速力は30ノット(時速55km)だが、そうりゅう型潜水艦の水中最高速度は20ノット(時速37km)でしかない。
通常型潜水艦が水上艦艇に追いつくことは不可能で、通常型潜水艦の基本は今でも「待ち伏せ攻撃」と言える。
潜航深度 | 運用時650m/最深900m(推定) |
全長 | 84m |
全幅 | 9.1m |
基準排水量 | 2,900トン(5番艦以降2,950トン) |
水中排水量 | 4,200トン |
水中速度 | 20ノット(時速37km)/18ノット(時速33km/h)11番艦・12番艦 |
水上速度 | 13ノット(時速24km) |
乗員 | 65名 |
建造費 | 530億円~560億円(11番艦660億円) |
兵装 | 533mm魚雷発射管×6門 |
水雷等 | 89式魚雷・18式魚雷・ハープーン(合計20本予想) |
航続距離 | 12,000km |
建造数 | 12隻 |
通常型潜水艦として、自衛隊の「そうりゅう型潜水艦」の性能は世界トップクラスと言える。
2020年3月に就役したリチウムイオン電池搭載の11番艦「おうりゅう」は、同じ速度の場合、「そうりゅう型潜水艦(1番艦~10番艦)」の2倍以上の連続潜航距離となる。
また、当ブログの予想では「待ち伏せ任務」の場合の連続潜航時間は「従来の2週間から1ヵ月間」へ2倍になったと思われる。
しかし、「リチウムイオン電池の瞬間電流出力は、鉛蓄電池よりも低い」ため、水中最高速度が20ノット(37km/h)から18ノット(33km/h)へと遅くなった予想される。
鉛蓄電池搭載の「そうりゅう型潜水艦」は瞬間的(5分間)に20ノット(37km/h)の速力を出せるが、連続潜航の場合は16ノット(30km/h)しかだせない。
リチウムイオン電池を搭載した「おうりゅう」は、連続潜航時でも常時18ノット(33km/h)を出せるので実質的な速度は向上している。
従来の「そうりゅう型」潜水艦(スターリングエンジン)のシュノーケル充電時間は公称100分と言われるが、これはフル充電の時間ではないと思う。
個人的予想では、鉛蓄電池のフル充電するには4時間かかると思われる。
これは、運用上は完全放電した状態からフル充電するのではなく、例えば充電量が60%~70%まで減少した段階で、シュノーケル充電時間するのではないか?それが公称100分という意味ではないか?
リチウムイオン電池は鉛電池よりも急速充電ができるが、「おうりゅう」は従来艦の鉛電池の4倍の容量のリチウムイオン電池を搭載しているのでフル充電するにはやはり4時間程度はかかると予想される。
ただし、作戦中の1回のシュノーケル充電時間は、同じ蓄電容量ならば従来の100分から25分程度に短縮されたのではないか?
退役潜水艦
建造期間 | 就役期間 | 建造数 | 計画数 | 現役隻数 | 潜航深度 | |
ゆうしお型 | 1976年~1989年 | 1980年~2008年 | 10隻 | 10隻 | 0隻 | 450m |
はるしお型 | 1987年~1997年 | 1990年~2017年 | 7隻 | 7隻 | 0隻 | 550m |
現役潜水艦
建造期間 | 就役期間 | 建造数 | 計画数 | 現役隻数 | 潜航深度 | |
おやしお型 | 1994年~2008年 | 1998年~就役中 | 11隻 | 11隻 | 11隻(9隻+練習艦2隻) | 600m~800m |
そうりゅう型 | 2005年~2021年 | 2009年~就役中 | 11隻 | 12隻 | 11隻 | 650m~900m |
合計 | 22隻(20隻+練習艦2隻) |
2021年1月現在、現役艦20隻+練習艦2隻の合計22隻となっている。
キロ級潜水艦など世界の多くの潜水艦は水深300mしか潜れないし、対潜水艦ミサイル(アスロック)も水深300~400mしか届かない。
また、他国の潜水艦の魚雷は水深500mより深いところでは、水圧で圧潰するので水深650m~900mの「そうりゅう型」潜水艦を攻撃できない。
そうりゅう型潜水艦は水深650m~900mまで潜航でき、そこから水深300mにいる他国潜水艦を魚雷攻撃できる。
つまり「そうりゅう型」潜水艦は他国の潜水艦や水上艦から攻撃されることなく、一方的に攻撃できるのだ。
海上自衛隊そうりゅう型潜水艦(SS16)は非大気依存推進装置AIPを搭載している。
これはスターリングエンジンで液体酸素と少量のディーゼル燃料でエンジンを稼動、発電し推力を得るシステムだ。
従来型潜水艦の連続潜航期間は数日だったが、AIP搭載により連続潜航期間は2週間と大幅に延長された。
しかし、AIP使用時の水中速度は5ノット(時速9km)と遅く、またAIP装置は巨大で乗員の居住区画が小さくなるという問題点がある。
AIPの弱点を克服するため「そうりゅう型潜水艦11番艦 おうりゅう」はスターリングエンジンを廃止し、体積エネルギー密度が鉛蓄電池の4倍のリチウムイオン電池(GSユアサ・テクノロジー社製)を採用した。(リチウムイオン電池の重量は鉛電池の1/2なので重量エネルギー密度は2倍)
ただし、エネルギー密度を上げると「発火」の危険性が高まるので、エネルギー密度は3倍くらいではないか?
AIP区画を廃止し、そこにもリチウムイオン電池を設置していると予想される。
艦級 | おやしお | そうりゅう(前期) | おうりゅう | たいげい |
電池個数 | 240個×2=480基 | 240個×2=480基 | 320個×2=640基 | 340個×2=680基 |
電池種類 | 鉛 | 鉛 | リチウムイオン | リチウムイオン |
総蓄電容量 | 1 | 1 | 1.33×3=4倍 | 1.42×3=4.3倍 |
つまり、総蓄電容量は「おうりゅう」は約4倍、たいげい型は約4.3倍と予想される。
リチウムイオン電池は高価なため、建造費は660億円となった。
リチウムイオン電池の採用により従来型艦(AIP使用時時速9km 5ノット)よりも、高速で潜航でき連続潜航日数は2週間から30日(1ヵ月)と長くなった。
そもそも「そうりゅう型潜水艦」は海峡などのチョークポイントで待ち伏せする場合、潜航中はそれほど移動せず、スターリングエンジンで十分だった。
しかし、リチウムイオン電池搭載「そうりゅう型潜水艦11番艦(おうりゅう)」は、連続潜航航続距離が約4倍に伸びたことにより「ゲール・デ・クルース」(巡洋艦戦略)も可能となった。
もちろん、待ち伏せ作戦を行うこともあり、その場合1ヵ月間潜航できる。
艦種 | 電池種類 | 速度 | 潜航持続時間 | 連続潜航距離 | |
おやしお型 | 鉛蓄電池 | 4ノット(7km/h) | 100時間 | 700km | |
そうりゅう型(前期型) | 鉛蓄電池 | 4ノット(7km/h) | 100時間 | 700km | 1,600km |
AIP(スターリングエンジン) | 5ノット(9km/h) | 100時間 | 900km | ||
そうりゅう型(おうりゅう) | リチウムイオン電池 | 4ノット(7km/h) | 400時間 | 2,800km | |
8ノット(15km/h) | 100時間 | 1,500km | |||
12ノット(22km/h) | 44時間 | 968km | |||
16ノット(30km/h) | 25時間 | 750km |
艦名 | 進水 | 就役 | 配備基地 | |
1番艦 | そうりゅう | 2007年12月 | 2009年3月 | 呉基地 |
2番艦 | うんりゅう | 2008年10月 | 2010年3月 | 呉基地 |
3番艦 | はくりゅう | 2009年10月 | 2011年3月 | 呉基地 |
4番艦 | けんりゅう | 2010年11月 | 2012年3月 | 呉基地 |
5番艦 | ずいりゅう | 2011年11月 | 2013年3月 | 横須賀基地 |
6番艦 | こくりゅう | 2013年10月 | 2015年3月 | 横須賀基地 |
7番艦 | じんりゅう | 2014年10月 | 2016年3月 | 呉基地 |
8番艦 | せきりゅう | 2015年11月 | 2017年3月 | 呉基地 |
9番艦 | せいりゅう | 2016年10月 | 2018年3月 | 横須賀基地 |
10番艦 | しょうりゅう | 2017年11月 | 2019年3月 | 呉基地 |
11番艦 | おうりゅう | 2018年10月 | 2020年3月 | 呉基地 |
12番艦 | とうりゅう | 2019年11月 | 2021年3月(予定) |
2020年3月、11番艦「おうりゅう」が呉基地に配備され「そうりゅう型潜水艦」の配備数は呉基地に8隻、横須賀基地に3隻となった。
首都圏の横須賀基地よりも西日本の呉基地の方が配備数が多い。
これは尖閣列島など南西諸島に「そうりゅう型」潜水艦を派遣するには、呉基地の方が距離的に近いからだ。
尖閣列島やパシー海峡(台湾~フィリピンノ100km)周辺に「そうりゅう型潜水艦」を含め常時5隻~8隻の潜水艦を配置しているとの情報もある。
また、尖閣列島周辺では「そうりゅう型潜水艦」は常に中国海警局船をロックオンしており、日本の首相が自衛隊法76条の防衛出動を発令すれば、中国海警局船をいつでも撃沈できる状態にあると思われる。
従来、海自自衛隊の潜水艦は現役16隻+練習艦2隻の18隻体制だったが、2021年度(2022年3月)には現役22隻+練習艦2隻の24隻体制になる予定。
2021年度(2022年3月)の予想配備数
型級 | 現役 | 練習艦 | 合計 |
おやしお型 | 9隻 | 2隻 | 11隻 |
そうりゅう型 | 12隻 | 12隻 | |
次期潜水艦 | 1隻 | 1隻 | |
合計 | 22隻 | 2隻 | 24隻 |
2021年度以降は次期潜水艦の就役と同時に順次「おやしお型潜水艦」を退役させる。
原子力潜水艦の最大潜航深度は500~700mと推測される。中には深度900m~1,000mと言われることがあるが、米ソ冷戦時代に建造された超高性能・超高価な数隻の原潜(米・シーウルフ級など)のみだ。
現在の米国海軍の主流である「ロサンゼルス級原潜」は水中排水量約7,000トンと大型のため、潜航深度は600m程度とされる。
原潜は原子炉を停止することができないので、運転音が通常型潜水艦よりも大きい。さらに原子炉からの熱は最終的に海中に放出されるので、原潜の周囲の海水温が高くなり探知されやすくなる。
したがって、静粛性は「たいげい型」が優位、潜航深度も「たいげい型」は原潜と同等と思われる。
潜航期間、航続距離は原潜の方が圧倒的に有利だが、日本周辺海域であれば、1か月の潜航期間の「たいげい型」でも不利とはならない。
プロペラスクリューを廃止し原子力潜水艦と同じ「ウォータージェット推進」であれば、さらに静粛性と高速性が高まる。
ウォータージェット推進はプロペラ推進よりもエネルギー効率(燃費)が悪いが、静粛性と高速性が高い。
例えば、全固体リチウムイオン電池が採用されれば蓄電量が多くなれば「ウォータージェット推進」が採用される可能性はある。
「たいげい」型潜水艦は、水深200m以下の東シナ海のように浅い海域でも発見されにくくなる。
「たいげい」「そうりゅう型」潜水艦が40隻あれば、日本は中国海軍を完全に海上封鎖できる。
建造費は700億円と予想されるので40隻で2兆8000億円となる。これで、中国は完全に日本に対して手も足も出せなくなる。
また、そうりゅう型潜水艦は1隻あたり20本の魚雷を搭載していると予想されるので、尖閣列島に5隻配備すれば中国軍艦100隻を1時間以内に全滅させることができる。
なぜ1時間かかるかというと、海自の89魚雷の最高速度は120km/hなので、12km先の中国軍艦を撃沈するのに6分、36km先だと撃沈まで18分かかる。
海自の89魚雷は途中まで有線で誘導するので、魚雷20発を6門の発射口から発射するのに30分~1時間かかるからだ。
そもそも、潜水艦の潜航深度は最高機密であるため、公表されている情報から推測するしかない。
例えば、89式魚雷の最大深度が900mだから、そうりゅう型の最大深度が900mと言っているのではなく、89式魚雷は有線誘導可能なので、最大深度900mで誘導するなら、少なくとも「そうりゅう型潜水艦」は深度600mまで潜らないと誘導できない。
このように、公表されているデータから一つ一つ予想して、総合的に考えるしかない。