出典 防衛白書
防衛省は、12式地対艦誘導弾(SSM)を改良し、敵ミサイルの射程圏外から攻撃できる長射程巡航ミサイル(スタンド・オフ・ミサイル)「12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)」を2026年度にも配備する方針。
「12式地対艦誘導弾能力向上型」は、現行12式地対艦誘導弾の射程200kmから1,000km超(最終的には1,500kmも可能)まで長射程化する計画で、配備数は1,000発となる見通し。
しかし、1000発を配備するには数年かかると予想される。
- 地上発射型 2026年度配備
- 艦艇発射型 2028年度配備
- 航空機発射型 2030年度配備
個人的な予想だが、防衛省としては台湾有事が2026年以降に発生する可能性があると分析しているのではないか?
12式地対艦誘導弾(SSM)改良型
現行の12式地対艦誘導弾(SSM)に主翼を付加し大型化し、地上、艦船、航空機(F-2戦闘機)からも発射でき、敵の地上目標も攻撃できるようになる。
「イージスアショア」の配備断念を受けた代替案として、2020年12月にイージス・システム搭載艦を2隻建造することを決定したが、この新しいイージス艦にも射程1,000kmの「12式地対艦誘導弾能力向上型」を搭載する見込み。
さらに、2020年代後半には潜水艦から水中発射できるよう検討している。発射方式は魚雷発射管またはVLS(垂直発射装置)を検討中。
年度 | 配備予想 |
2026年度 | 地上発射型の配備 |
2028年度 | 艦艇発射型の配備 |
2030年度 | 航空機発射型(F-2搭載か?)の配備 |
2028年~2030年? | 潜水艦発射型(魚雷発射管またはVLS) |
実は射程は1500kmではないか?
12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)の全長は900cmで、12式地対艦誘導弾(SSM)の全長500cmと比較して大幅に長くなっている。
航空機発射型や潜水艦発射型ミサイルとしては全長900cmは長すぎる。したがって、地上発射型の射程は1500kmではないか?
また、航空機発射型や潜水艦発射型は全長700cm程度まで短縮化し、射程1000kmになるのではないか?
熊本・奄美大島に配備か?
現在、「12式地対艦誘導弾」は、熊本市の健軍駐屯地の第5地対艦ミサイル連隊、奄美大島、石垣島、宮古島に駐屯する独立地対艦ミサイル中隊に配備されている。
敵の攻撃を考慮するなら、12式地対艦誘導弾能力向上型(地上発射型)は、熊本市の健軍駐屯地に配備されるのではないか?
ただ、熊本から台湾(台北)までは約1,250km、台湾の対岸の中国側(福建省)までは1,400kmある。
したがって、射程1,000kmでは熊本から台湾有事・南西諸島有事には即応できない。やはり、射程は1,500kmとなるのではないか?
もし射程1,000kmならば、より台湾や中国に近い奄美大島に配備する可能性もある。
自衛隊の誘導弾の概要
12式地対艦誘導弾(SSM)
型式 | 射程 | 直径 | 全長 | 重量 | 製造 | 配備時期 |
88式地対艦誘導弾(SSM) | 150km | 35cm | 500cm | 660kg | 三菱重工業 | 1988年 |
12式地対艦誘導弾(SSM) | 200km | 35cm | 500cm | 700kg | 三菱重工業 | 2012年 |
400km | 35cm | 500cm | 三菱重工業 | 2023年(計画中止か?) | ||
12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型 | 1000km | 900cm | 三菱重工業 | 2026年度 |
中国軍はすでに射程500km~5500kmの弾道ミサイル1900発、巡航ミサイル300発を配備している。
したがって、12式地対艦誘導弾(SSM)の射程を400kmに長射程化しても、全く意味がないため、導入は断念された。
自衛隊が導入開発予定の長距離誘導弾(まとめ)
ミサイル | 内容 | 射程 | 導入時期 | 発射方法など |
新型12式地対艦誘導弾(SSM) | 地対艦/空対艦/艦対艦/巡航誘導弾 | 1000km超 | 2024年度 | 陸上・海上・航空機発射型(三菱重工業) |
新型対艦誘導弾 | 島嶼防衛用新地対艦誘導弾 | 2,000km | 川崎重工業 | |
JSM | 空対地巡航誘導弾 | 500km以上 | 2022年3月(予定) | ステルス戦闘機F-35A |
JASSM-ER | 空対地巡航誘導弾 | 926km以上 | F-15J(要改修)・F-35A(ウエポンベイ外部) | |
艦対艦巡航誘導弾 | 800km以上 | 2021年8月(導入見送り) | ハープーン後継・護衛艦垂直発射(VSL)・潜水艦(魚雷発射管) |
新型12式地対艦誘導弾(SSM)の計画中止の背景
中国はロシア製の射程400kmの地対空ミサイル「S-400」(トリウームフ)を2019年頃に配備したと見られる。この「S-400」のレーダー探知距離は700kmであるため、新型長距離巡航ミサイルの射程は1000km以上と予想される。
現在、防衛省は「12式地対艦誘導弾(SSM)」の射程200kmを400kmに長射程化する「12式地対艦誘導弾(SSM)改」を2023年配備を目標に開発していた。
しかし、射程400kmでは中国のミサイルよりも性能が劣り時代遅れになることから、計画を変更し長射程化したものと思われる。
12式地対艦誘導弾(SSM)改計画を変更か?
防衛省は、現在の「12式地対艦誘導弾(SSM)」の射程200kmを400kmに長射程化した「新型ミサイル(地対艦誘導弾)改」を2023年にも部隊配備する計画だったが、今回の長距離誘導弾に変更された可能性が高い。
変更前の概要
12式地対艦誘導弾(SSM)改を宮古島に配備すると、尖閣列島までの距離は約170km~約180kmなので、尖閣列島の北方約200kmまでが射程に入る。さらに中国海軍が頻繁に航行している宮古海峡(宮古島~那覇間290km)の全海域を射程に収めることができる。
問題点
ただ、88式地対艦誘導弾、12式地対艦誘導弾の速度は時速1,200kmで、もし、新型長距離巡航ミサイルも同じならば、300km先の目標に到達するのに15分かかる。
軍艦の最大速度は時速50kmなので15分で約12km移動できる。このため、本来なら誘導弾の速度を上げる必要がある。
しかし、防衛省は2026年配備を目標にマッハ5以上の対艦ミサイル(ASM-3改)を別途開発しているので、新型長距離巡航ミサイルは速度を上げるのではなく、むしろ1,000km以上という長射程を開発目標にすると思われる。
したがって、新型長距離巡航ミサイルの推進装置については12式地対艦誘導弾と同じ固体燃料ロケット+ターボジェットという組み合わせのままと思われる。
誘導方式については、新型ミサイルはGPS誘導で敵艦船まで接近し、最終誘導は自らレーダーを発射して敵艦を探知するアクティブ・レーダー・ホーミング式となるが、衛星経由(UTDC)、海自のP1哨戒機・E-767早期警戒管制機から位置情報を取得して誘導する「戦術データ交換システム(データリンク)」も併用する可能性もある。
長射程化については燃料を多く搭載すればよく、誘導装置についても、GPS誘導とアクティブ・レーダー・ホーミング式誘導はすでに12式地対艦誘導弾に採用されており技術的な問題はない。
しかし、誘導装置の高度化(データリンク)については開発に時間がかかると思われる。
空対艦ミサイル
新型長距離巡航ミサイルは海上自衛隊のP-1哨戒機にも搭載し「空対艦ミサイル」としても活用する。
陸上(島)発射の場合、レーダーでは水平線以遠を航行する艦艇を捕捉できないので衛星経由(UTDC)、P-1哨戒機でレーダー捕捉するしかないし、300km先の目標に到達するまで15分かかる。
ならば、P-1哨戒機にもに空対艦ミサイルを搭載した方が即応迎撃できるという発想かもしれない。
現在の地対艦ミサイル
陸上自衛隊の地対艦ミサイルは「12式地対艦誘導弾」(射程200km)と「88式地対艦誘導弾」(射程150km)で、共にトラック(発射車両)に搭載でき、有事の際は移動できる。
「88式地対艦誘導弾」は沖縄方面を管轄とする西部方面隊第5地対艦ミサイル連隊(熊本)に配備されている。「12式地対艦誘導弾」16車両(ミサイル96本)も2016年度から西部方面隊(熊本)に配備されており、有事の際は沖縄県の離島にミサイル発射車両を運搬すると見られる。
現在の尖閣周辺の状況
尖閣列島から石垣島は170km、宮古島までは180kmの距離がある。尖閣列島から中国大陸までの最短距離は約330kmで、尖閣列島の北方約100km~150kmに中国海軍の艦船が常時待機している。
自衛隊の護衛艦と潜水艦は尖閣列島の南側約50km~100kmに展開している。つまり尖閣列島を挟んで自衛隊護衛艦、潜水艦と中国軍艦が常に対峙しているのだ。中国軍艦艇が待機している海域は水深150m~200mと浅い。
海上自衛隊の「そうりゅう型潜水艦」は水深650mまで潜航できるが、水深150m~200mの海域では発見される可能性があり、中国軍艦に容易には接近できない。
また、「12式地対艦誘導弾」の射程は最大200kmなので、石垣島、宮古島から尖閣の領海(島から約22km)を防衛できるが、現在、中国軍艦が待機してる尖閣列島の北側海域には到達できない。
中国「S-400」配備
中国はロシアから射程400kmの地対空ミサイル「S-400」(トリウームフ)を輸入する契約を2015年に締結し、2019年までに中国に配備したと思われる。「S-400」のレーダーは700km以内の300の目標を捕捉し、射程400km以内の6つの目標を同時に迎撃できるとされる。
S-400の価格は1セット5億ドル(約600億円)で、中国は合計6セット30億ドル(3,300億円)分を購入し配備すると予想される。
中国大陸から尖閣列島までは約330kmなので、中国軍のミサイルの射程が400kmなら、尖閣列島の南側70kmの空域まで中国のミサイル射程圏となっており、有事の際は空自のF-15Jも容易に尖閣列島に接近できなくなっている。
アメリカ軍は圧倒的な軍事力を保有しており、アメリカ本土や島嶼などの陸上配備型の「地対艦ミサイル」を保有していない。そこで長年、地対艦ミサイルの開発・配備を行ってた日本の陸上自衛隊の装備に注目している。