ソーサス(SOSUS)
ソーサス(SOSUS)とはSound Surveillance Systemの略で、海底に設置した音響監視システムを意味する。
アメリカ軍とイギリス軍が設置したのが最初で、日本も同様の「ケーブルセンサー」という海底情報通信網を設置している。
具体的には、海底に潜水艦の音を感知するパッシブソナーを多数設置し、それらをケーブルで繋ぎ、陸上の受信局に伝送する。
沖縄周辺にもソーサスを設置
このソーサス(SOSUS)は南西諸島にも広範囲に、しかも多重的に設置されており、その拠点は沖縄県うるま市ホワイトビーチにある海上自衛隊沖縄海洋観測所だ。
この海上自衛隊沖縄海洋観測所からは2本のケーブルが伸びており、一つは九州方面、もう一つは台湾方面に数百キロ敷設されている。さらに途中でいくつものに分岐されれおり、数か所が破壊されてもシステム全体に影響ないようになっている。
元々ソーサスは米軍が設置していたものだが、現在では海上自衛隊と米軍が共同運用している。
中国軍漢級潜水艦領海侵犯事件
2004年11月10日、中国海軍の漢級原子力潜水艦が日本の領海である石垣水道(石垣島と多良間島間)を潜没通航した。
これに対して、政府は海上自衛隊に、発足以来2度目となる海上警備行動を発令した。海自は警戒中のP3-Cに加え、護衛艦「くらま」、「ゆうだち」とヘリコプターを派遣し、中国海軍原子力潜水艦を追尾した。
中国軍漢級潜水艦の動き
中国軍の漢級潜水艦が中国青島海軍基地を出港した時点からアメリカは衛星で探知し、アメリカ海軍の原子力潜水艦が追尾を開始した。
自衛隊のケーブルセンサーが中国海軍漢級潜水艦とアメリカ海軍原子力潜水艦の2隻を探知し、P3-Cが緊急展開、ソナーを周辺海域に投下した。
その後、アメリカ軍との情報交換で、アメリカ海軍原子力潜水艦が中国海軍漢級潜水艦を追尾していると判明した結果、日米共同で中国海軍漢級潜水艦を追尾することとなった。
中国海軍漢級潜水艦は、宮古島付近を通過し、グアム島周辺まで到達した。さらにグアム島を半径150kmの距離で円を描くように一周した。その後、再び石垣水道を通過しようとした際に、日本の領海に潜航したまま侵入した。
日本の防衛庁(当時)は海上警備行動を発令し、中国潜水艦を追尾した。中国海軍漢級潜水艦は途中、エンジン停止、デコイ(おとり)を射出するなどして追尾を振り切ろうとしたが、自衛隊と米軍は完璧に追尾していた。
中国の反応
中国軍は少なくとも2004年の漢級潜水艦領海侵犯事件までは、ソーサス(SOSUS)やケーブルセンサーの実態を知らなかったし、中国潜水艦が出航時からすべて日米に探知されていたことも知らなかった。
その後、中国は日本の排他的経済水域(EEZ)で水温、深度などを調査すると共に、海底ケーブルを調査するようになった。
中国海軍も青島、上海などの海軍基地周辺の東シナ海に、「反潜網」という海底ケーブルセンサーを設置するようになった。
米海軍無人潜水機捕獲事件
2016年12月、中国海軍は米海軍の無人潜水機をフィリピン沖の南シナ海で捕獲した。なぜ、中国は緊張を高める行為をしたのか?
日米は、すでに九州南部から沖縄を経由してフィリピン沖に至る東シナ海に最新型のソーサスを設置している。これにより、中国軍潜水艦が、日米のソーサスに発見されずに東シナ海を通過することはできなくなった。
もし、フィリピン沖の南シナ海にソーサスが設置されると、中国海軍の潜水艦は日米に発見されずに、太平洋に出ることができなくなる。
これは中国の核抑止力が弱体化することを意味する。具体的に言うと中国のSLBM(潜水艦発射型ミサイル)の射程は8,000kmで、南シナ海から発射しても、米国本土までは13,000kmあるので届かない。
したがって、中国潜水艦は、南シナ海から太平洋にでないと米国本土を核攻撃できない。アメリカの立場から言うと中国潜水艦を南シナ海から出さないことがアメリカの安全保障につながる。
「ソーサス」は、中国潜水艦を南シナ海に封じ込めたいアメリカの切り札なのだ。
中国海軍は、南シナ海にソーサスを設置させないために、水深、水温を調査する無人潜水機を警戒し捕獲したと考えられる。