25DD「あさひ型」護衛艦(出典 海上自衛隊ホームページ)
海上自衛隊の新型護衛艦25DD「あさひ」が2016年10月19日に長崎市の三菱重工長崎造船所で進水し、2018年3月7に引き渡しされた。
あさひ型護衛艦の1番艦で基準排水量約5,100トン、全長151m、全幅18.3m、深さ10.9mと、19DD護衛艦「あきづき」級とほぼ同じ大きさとなっている。
さらに、あさひ型護衛艦の2番艦「しらぬい」が2019年2月27日に就役した。
艦種 | 25DD護衛艦 |
基準排水量 | 5,100トン |
全長 | 151m |
全幅 | 18.3m |
深さ | 10.9m |
機関型式 | ガスタービン2基 |
最大速度 | 30ノット(時速55km) |
艦名 | 進水 | 就役 |
あさひ(25DD) | 2016年10月19日 | 2018年3月7日 |
しらぬい(26DD) | 2017年10月12日 | 2019年2月27日 |
イージス艦は弾道ミサイル迎撃態勢に入ると、レーダー索敵範囲を絞るため、航空機、海上艦艇の発見が手薄になる。
そのためにもう1隻のイージス艦を1,700億円かけて建造することはオーバースペックで経済的ではない。また、大型のイージス艦は小型艦艇に対応しにくいとされる。
このような経緯から
- 対潜、対海上艦艇を担当する「海のミニイージス」25DD護衛艦あさひ(建造費759億円)
- 防空能力を担当する「空のミニイージス」19DD護衛艦あきづき(建造費750億円)
を建造することになった。
25DD護衛艦の特徴は、対潜水艦能力を向上させたことにある。
海上自衛隊には、P-3C哨戒機、P-1哨戒機、SH-60K哨戒ヘリコプター(ひゅうが型護衛艦搭載)などの対潜装備品があるのになぜ、対潜護衛艦が必要だったの?
それは中国の軍事力拡大に対応するためだ。
中国には2017年にもロシア製長距離地対空ミサイル「S-400」を配備する予定だ。この「S-400」はマッハ5、射程400kmで、中国大陸沿岸に配備すれば、尖閣列島(中国大陸から最短距離330km)が射程に入る。
中国空軍はSu-27、Su-30、J10、J11などの第4世代戦闘機を740機保有している。一方、日本の自衛隊の第4世代戦闘機はF-15J(近代化改修機)とF-2の合計の約185機しかない。
しかも、中国空軍の第4世代機は射程200kmのR-77空対空ミサイル(西側のAIM-120 AMRAAMに匹敵)を装備している。
したがって、早ければ2017年にも尖閣列島上空に日本の自衛隊戦闘機F-15Jが近づけなくなる可能性がある。
F-15Jの支援ない場合、速度の遅いP-3C哨戒機、P-1哨戒機、SH-60K哨戒ヘリコプターは撃墜される可能性があり出撃できない。
もちろん、近代戦では航空機単体で戦闘するのではなく、AWACSの支援を受けて、敵機のレーダー圏外から攻撃するため、戦闘機だけの性能、数を比較しても意味がない。
それでも、航空機単体では中国軍が有利になったことは事実であり、自衛隊が、制空権(航空優勢)を失った場合に備える必要が出てきた。
また、気象条件が悪化した場合、P-3C哨戒機、P-1哨戒機、SH-60K哨戒ヘリコプターが出撃できない可能性がある。
そのような場合でも中国の潜水艦や小型艦艇を確実に撃沈するために新型護衛艦が必要になった。
19DD「あきづき」級護衛艦は、防空重視のフェーズドアレイ・レーダーFCS-3Aを装備し「空のミニイージス艦」と言える。
一方、25DDは強力な対潜機能を持つ「海のミニイージス艦」と言える。
25DD護衛艦が就役すると、海自艦隊は、イージス艦、ヘリ搭載護衛艦、空のミニイージス艦、海のミニイージス艦が揃う。
これにより、北朝鮮の弾道ミサイルから、中国の潜水艦まで日本周辺のあらゆる危機に対して切れ目なく対処できる最強防衛艦隊が完成する。
対潜装備ソナー
25DD「あさひ」型護衛艦の特徴は対潜攻撃力にある。
まず、ソナー(艦首型OQQ-24と曳航型OQR-4)は、マルチ・スタティック機能を強化した。
これは、艦隊のうち1艦だけがピンガー(発振音)を打ち、その他の艦船がパッシブソナーで受信し解析するシステムだ。
ピンガーを打つのは1艦だけなので、敵からの発見されるのは1艦艇のみとなり、被攻撃率を下げることができる。
魚雷
12式短魚雷(開発コードG-RX5)は、尖閣北側の水深100m~200mの浅い海域でも命中精度を向上させた最新型魚雷で、HOS-303短魚雷発射管から発射される。
また07式垂直発射魚雷投射ロケットの弾頭に搭載されている。
レーダー
アクティブ・フェーズド・アレイレーダーを搭載する。25DD「あさひ」型護衛艦は防空能力よりも対潜能力を向上させたため、艦隊防衛用の「FCS-3A」ではなく、個艦防衛用の「FCS-3」となる。
固定アンテナ4面が艦橋部に集中配置されているが、これは、レーダー設置位置の自由度を上げるためと思われる。またXバンドレーダーも搭載する。
VLS(垂直ミサイル発射装置)
Mk41型のVLSが16セル装備されている。19DD「あきづき」型護衛艦の32セルより半減されているが、16セルを増設することが可能となっている。
このMk41型VLSからは、ESSM(シースパロー後継ミサイル)、短SAM(対空ミサイル)、07式SUM(対潜ミサイル)、07式垂直発射魚雷投射ロケット(07VLA)を発射できる。
機関
ガスタービン2基に推進電動機2基を組み合わせたハイブリッド推進方式を海自の艦艇で初めて採用した。ガスタービン4基の従来の護衛艦に比べ、維持整備費が低減される。
COGLAG方式とは、低速ではガスタービンエンジンで発電し電気モーターで推進する。高速ではガスタービンエンジンによる直接推進も併用する。これにより、低燃費と高速運転が可能となる。
また、最近の護衛艦は強力なレーダーを動かすために、大量の電力が必要となっている。電気推進方式は大量の電力を発電することができ有利と言える。
建造費
25DD護衛艦の建造費は760億円。ちなみにイージス艦27DDG(基準排水量7,000トン)の建造費1,700億円。
ミニイージス艦の建造により、日本の防衛体制は対中国戦を想定したより実戦的な艦隊編成になったと言える。
また、「あさひ型護衛艦」は2番艦「しらぬい(26DD)」まで予算化されているが、最終的には5~6隻建造されると予想される。
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