2016年7月、首相に就任したテリーザ・メイ首相は、EU離脱か残留かを明確に意思表示していなかったことから、日本では、漁夫の利を得たというような報道があるがそれは違う。
テリーザ・メイ氏はイギリス内務大臣であった。イギリス内務省は日本の自治省に相当すると言われる。しかしイギリス内務省は出入国管理、移民政策、治安を担当し、イギリス警察、情報機関の「MI 5」も統括する機関だ。
戦前の日本の旧内務省のようなイメージだ。その内務省の大臣がテリーザ・メイ氏だった。彼女の政策は第一に移民制限であって、EU離脱問題の優先度はそれよりも低い。つまり、彼女は移民強硬派で、どちらかと言うとEU残留派であったが、移民問題次第ではEU離脱もやむなしというスタンスだ。
かなりの確率でイギリスはEUから離脱するだろう。テリーザ・メイ氏の心中ではEU離脱をすでに決定している。そうでないなら首相にはならない。
デービッド・キャメロン前首相は1966年生まれの49歳で、エリートの家系だ。しかし、テリーザ・メイ首相は1956年生まれの59歳、オックスフォード大学卒業ながら、公立高校出身でイギリスの階級社会では中産階級とみなされている。また2回の落選にもめげず1997年にイギリス下院議員に初当選し、内務大臣までなった苦労人と言える。
ボリス・ジョンソン氏の先祖はオスマントルコ末期の内務大臣だったアリ・ケマルやイギリス王ジョージ2世がいるエリートの家系だが、庶民的な性格でロンドン市民、イギリス国民に人気がある。
彼は、庶民受けを狙ってEU離脱を主張し、キャメロン前首相と反対の立場をとり首相になろうとしただけだ。テリーザ・メイ首相と対抗できるほどの政治力はない。テリーザ・メイ首相はボリス・ジョンソン氏をコントロールできると思ったので外相に就任させた。
テリーザ・メイ首相は、オックスフォード大学卒業ながら、イギリス階級社会の中では上流階級出身ではなく、イギリス庶民の気持ちを理解している。
イギリス国民がEU離脱派を支持したのは、EU加盟でイギリスの国際的企業エリートだけがメリットを受けて、イギリス庶民は移民に仕事を奪われデメリットしかないと感じていることに気が付いている。
そのためイギリス庶民に人気のあるボリス・ジョンソン氏を外相に就任させ、イギリス庶民の反感をかわないように巧妙な人事をしたのだ。
ボリス・ジョンソン氏がEU離脱を推進したのはEU残留派のキャメロン前首相を追い落とすための方便で、実際はEU残留派と考えられる。
当初2020年に予定されていたイギリス保守党の党首選挙は、ジョージ・オズボーン前財務相、テリーザ・メイ前内相、ボリス・ジョンソン前 ロンドン市長の3人が有力候補と言われていて、マイケル・ゴーブ氏が党首選で勝利する見込みはなかった。
そのマイケル・ゴーブ氏が保守党党首選挙に立候補するのは、別の意図があったと思われる。マイケル・ゴーブ前司法相は本気のEU離脱派で、ボリス・ジョンソン氏は実は、EU残留派と疑い始めた。ボリス・ジョンソン氏が首相就任すれば、EU離脱するかどうか確信が持てなかった。そのため、自らが党首選挙に立候補することで、ボリス・ジョンソン氏の首相就任を阻止した。
マイケル・ゴーブ氏は、政策的にボリス・ジョンソン氏よりも移民強硬派のテリーザ・メイ首相に近いと考えられる。彼の立候補により、テリーザ・メイ氏が首相になった。
マイケル・ゴーブ氏とテリーザ・メイ首相が連携したかどうかは不明だが、テリーザ・メイ首相はかなりの戦略家でハードネゴシエーターと言える。
生年月日 | 1956年 |
出生地 | イギリス・イーストボーン(ロンドンの南100km) |
学歴 | オックスフォード大学 |
父親 | イングランド国教会司祭 |
前職 | イングランド銀行 |
配偶者 | フィリップ・メイ(オックスフォード大学で知り合う、ロンドンの資金運用会社勤務) |
イギリス政治家の中でファションリーダー的存在、ひょう柄の靴を履くなど「強い女性」を演出している。イギリスブランドを好んで着ているようだ。