スティーブン・バノン米大統領首席戦略官・上級顧問の辞任でトランプ政権が弱体化するとの見方があるが、全くの間違いだ。
むしろ、スティーブン・バノンが本来のブライトバートニュースに復帰したことで、トランプ政権はより強固になる。
そもそも、スティーブン・バノンは安全保障やワシントン政治の素人で、政権内部にいたのでは、その力を発揮できない。
むしろ、政権の外にいた方がトランプ大統領を支える強力な力となる。
スティーブン・バノンの経歴と思想
スティーブン・バノンの思想は、レーニン主義者、反エスタブリッシュメント、反民主党、反大手メディアと言われる。
それは、彼の生い立ち、経歴に関係がある。
1953年、バノンはバージアニ州の労働者の家に生まれた。家族は労働組合や民主党を支持していた。
1976年、バージニア工科大学を卒業、1976年から1983年に海軍に入隊、大尉となった。
除隊後、1984年から1990年まで、ゴールドマンサックスで勤務、その間1985年にハーバードビジネススクールでMBAを取得した。
ゴールドマンサックスを退職後1990年にメディア専門の投資会社を起業した。その後、自ら映画プロデューサーとして市民運動「ティーパーティー」を称賛する映画を製作した。
2012年に保守系ニュースサイト「ブライトバート・ニュースネットワーク」の経営権を引き継いだ。
バノンは反グローバリズムを主張しているが、ゴールドマンサックスはグローバリズムで巨額の利益を得ている会社だ。
バノンの主張と彼の経歴は矛盾するように思える。
しかし、彼はハーバードのMBAを取得しても、労働者階級出身では、エスタブリッシュメントには追い付けないと感じたのかもしれない。
能力がありながら、エスタブリッシュメントにかなわないアメリカ社会の影の部分をグローバル企業で経験したのだろう。
その経験が彼を反グローバリズムへと導いた。
よく、バノンは白人至上主義者と言われるが、それは本質ではない。反グローバリズムに不満を持つ白人労働者層の支持を得るための政策に過ぎない。
スティーブン・バノンが政権に関与するまで
スティーブン・バノンは、ブライトバードニュース会長となり、まずジェフ・セッションズ上院議員(現・米司法長官)の演説秘書だったスティーブン・ミラーに接触した。
その後、ジフ・セッッションズ上院議員(現・司法長官)と懇意になった。
2016年8月、当時大統領選挙の共和党候補だったドナルド・トランプ氏の選挙対策本部長に就任した。
バノンは政権に留まるのは短期間と自覚していた
バノンは戦略家で一般大衆を動かす才能がある。しかし、ワシントンの政治家を動かす能力は皆無だった。
本人もそれを承知していて、短期間で政権内部から出るつもりだった。
トランプ大統領就任直後に大統領令を連発したのも、ワシントンの政治を不安定化させる作戦だった。
なぜ、そんなことをしたのか?
それは、バノンが「労働者階級出身者でもワシントンの政治を動かすことができるということ」を証明するためだった。
日本人は「アメリカは自由の国」と思っているがそれは間違いだ。
アメリカで成功するには有名私立大学を卒業しなければならないが、1年間の学費は500万円で4年間で2,000万円かかる。
アメリカの労働者階級は最初からアメリカで成功することは不可能に近い。
そういったアメリカ社会から疎外された白人層の不満は日本で想像するよりも大きい。
なぜ、バノンは辞任したのか?
大手メディアは「バノン=影の大統領」と揶揄し、そのことが、トランプ大統領とバノンの関係を悪くした。トランプ大統領は操り人形と言われることを嫌った。
クシュナーとバノンの対立
クシュナー(トランプ娘婿)とグローバリズム、バノンは反グローバリズムなので話が合うはずがない。クシュナーとバノンが協力できたのは「トランプを大統領にすること」だけだった。それが現実になった段階で、クシュナーとバノンが対立するのは予想された。
トランプ大統領はクシュナーを優先し、バノンは政権内部で孤立化した。
トランプ大統領は人の能力を見抜いて適材適所に配置して仕事をさせるタイプのリーダーだ。トランプ大統領はバノンに政治能力がないことを気付いて、バノンをブライトバードニュースに戻す決断をした。
トランプ大統領は大統領就任100日の演説でバノンの演説原稿を採用している。トランプ大統領とバノンの関係は、決定に悪くなったのではない。
バノンの今後
バノンは反グローバリズム、反エスタブリッシュメントだから、その主張を続けるためにトランプ政権を支えることになる。