北方領土は返還されるか?「新アプローチ」とはなにか?
2016年5月6日、ロシア南部の保養地「ソチ」で安倍首相とロシアのプーチン大統領が会談した。
北方領土問題について「新たな発想に基づくアプローチで交渉する」ことで一致した。
従来の交渉
従来の日本の外交方針は、古地図や文献から北方領土は日本固有の領土であること主張し、全島返還を要求してきた。
これに対してロシアは北方領土は第二次世界大戦の戦利品と主張し、交渉は平行線のままだった。
安倍内閣の動き
2016年9月1日、世耕経産相を「ロシア経済分野担当大臣」に兼任させると発表した。
さらに、日本政府は「北方領土が日本に返還された場合、現在居住しているロシア人の居住権を容認する」と提案する方針を決めた。
新アプローチとは?
「新アプローチ」を発表した後の安倍政権の動きは「対ロシア経済協力」、北方領土返還後も「現在北方領土に居住するロシア人の居住権を認める」というものだ。
したがって「新アプローチ」とは、歴史問題から帰属を決定する従来の方法ではない。より現実的なアプローチで、「北方領土の日本への返還」を「対ロシア経済協力」の前提としない「アプローチ」と考えられる。
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北方領土の面積と居住人口
島名 | 面積 | 居住人口 |
歯舞群島 | 100k㎡ | 0人(国境警備隊が少数) |
色丹島 | 253k㎡ | 2,913人 |
国後島 | 1,499k㎡ | 7,355人 |
択捉島 | 3,184k㎡ | 6,006人 |
合計 | 5,036k㎡ | 16,274人 |
対ロシア経済協力とは?
ロシアは資源価格下落とクリミア半島併合により、欧米から経済制裁を受けている。結果、ロシア経済は疲弊しており、極東での経済開発をする余力がない。
極東ロシアの人口は1990年代の800万人から620万人にまで減少している。中国側の黒竜江省の人口は3,800万人で、中国の圧力が懸念される。
ロシアはウラジオストクに日本の自動車メーカーの工場を建設することを要求していると言われる。金額的には工場建設で500億円、周辺道路、港湾整備の合計で2,000億円~3,000億円になると予想される。
なぜ今、北方領土返還交渉なのか?
アメリカは、クリミア半島のロシア編入に反対し、ロシアに対して経済制裁している。そのため日本とロシアが接近することに反対している。
そのアメリカは2016年11月に大統領選挙があり、2016年9~12月にかけ、政治的空白となり、アメリカが日露の領土交渉に介入する可能性が低い。
なぜ、安倍首相は北方領土問題に熱心なのか?
安倍首相の父、故安倍晋太郎元外相はライフワークとして北方領土問題の解決に当たった。晋太郎氏は亡くなる1ヵ月前にも病床にありながら、当時のソ連のゴルバチョフ大統領と衆議院議長公邸で会談した。
当時、安倍首相は秘書官として、その場面に立ち会っていた。
安倍首相にとって、北方領土問題はそれだけこだわりのあるテーマだ。
今後の日程
2016年11月にペルーで開催されるAPEC首脳会議で安倍首相とプーチン大統領は会談する予定。
さらに2016年12月15日、プーチン大統領が来日し、安倍首相の地元、山口県長門市で会談する。そこで、平和条約締結、北方領土返還の具体案がでる可能性がある。
経済産業省と外務省の対立
日本の経済産業省は対ロシア経済援助に熱心で、外務省は消極的と日本政府内部で対ロシア政策について対立がある。
まとめ
日本政府は、ロシアが「北方領土4島が日本の領土である」と認めれば、歯舞群島、色丹島の2島先行返還を受け入れる方針だ。
一方、ロシアは本音としては2島返還で最終決着したいと思われるので、妥協の余地がないように思われる。
しかし、ロシアは、1956年の日ソ共同宣言通り、日露間で「平和条約」を締結した後、2島を返還する可能性はある。そのために、先行して日本が経済援助すべきとの外交方針をとっている。
ただ、日本の対ロ経済協力だけが先行して実施され、結局、2島も返還しないということもありえる。
安倍首相、森元首相、経済産業省は、2島先行返還案に熱心で、条件次第で返還合意する可能性は20~30%はある。
ロシア極東地域は過去20年間で人口が20%減少している。今後もこのペースで人口が減少すれば、20年後には約500万人、40年後には約400万人まで減少する。
日本はそこまで黙って待っていれば、ロシアは自分で弱体化して、最終的に北方領土の返還に応じるはずだ。また、中国東北部からロシアに対しての圧力も絶えず加えられるので、それも北方領土返還に有利な要素だ。
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