
日本の防衛政策をめぐり、原子力潜水艦の導入がこれまで以上に具体的な政策課題として浮上しています。
2026年10月6日、政府が年内に改定する「国家安全保障戦略」など安全保障関連3文書に、抑止力強化の選択肢として原子力潜水艦に言及する案が政権内で浮上していると報じられました。
では、仮に日本が原子力潜水艦を導入するとしたら、現在の潜水艦部隊をどのように組み替え、何隻程度を保有することになるのでしょうか。
海上自衛隊は現在、「おやしお型」「そうりゅう型」「たいげい型」などの通常動力型潜水艦22隻と、練習潜水艦2隻を運用しています。
日本の通常動力型潜水艦は、周辺海域や海峡などで敵艦を待ち伏せする「静粛性を生かした運用」に適しています。
特に最新鋭の「たいげい型」は、長時間の潜航能力を持つ潜水艦です。
ただし、「長時間潜航できる」ことと、「高速で長距離を航行できる」ことは別の問題です。
通常動力型潜水艦は、低速で航行しながら電池を温存することで、長時間の潜航を可能にしています。
一方、高速航行を続ければ、電池の消費量は大きく増加します。
例えば、4ノットで560時間航行できる電力量を基準にし、必要な推進出力が速度の3乗に比例すると仮定すると、理論上は以下のような数字になります。
「たいげい型」の航行時間と距離(当ブログ推定)
| 速度 | 時速 | 航行時間 | 航行距離 |
|---|---|---|---|
| 4ノット | 7.4km/h | 560時間 | 約4,148km |
| 8ノット | 14.8km/h | 70時間 | 約1,037km |
| 12ノット | 22.2km/h | 約20.7時間 | 約461km |
| 16ノット | 29.6km/h | 約8.8時間 | 約259km |
| 20ノット | 37.0km/h | 約4.5時間 | 約166km |
これはあくまで単純化したモデルですが、通常動力型潜水艦では「最高速度で長時間航行する」ことが難しいことを示す一例です。
そのため、通常型潜水艦は、原子力潜水艦のように高速航行を長時間続けながら遠距離を移動する用途には向いていません。
・高速での長距離航行(25ノット~30ノット)時速46km~時速55km
・遠距離への長期間展開
・敵艦艇の長時間追尾
・空母などの水上部隊との行動
・日本周辺海域から離れた海域での活動
原子力潜水艦には、大きく分けて「攻撃型原潜(SSN)」と「戦略原潜(SSBN)」があります。
日本が仮に原子力潜水艦を導入するとすれば、現実的な選択肢として考えられるのは攻撃型原潜(SSN)でしょう。
攻撃型原潜は、魚雷や対艦ミサイルなどを搭載し、敵の潜水艦や水上艦艇などを攻撃するための潜水艦です。
一方、戦略原潜(SSBN)は、核弾頭を搭載した弾道ミサイルを運用することを主要な任務としています。
日本は核兵器を保有していないため、現在の日本の防衛政策を前提にすれば、SSBNを導入する必要性は低いと考えられます。
そのため、もし原潜を導入する場合には、通常兵器を搭載するSSNを中心に検討することになると考えられます。
現時点で、日本政府が原子力潜水艦の具体的な導入隻数を決定したわけではありません。
そこで、一つの試算として考えられるのが、
攻撃型原潜6隻
という規模です。
現在の通常型潜水艦22隻を維持したまま、攻撃型原潜を6隻追加します。
さらに練習潜水艦2隻を維持すると、
22+6+2=30隻
となります。
| 区分 | 現在 | 導入案 |
|---|---|---|
| 通常型潜水艦 | 22隻 | 22隻 |
| 攻撃型原潜 | 0隻 | 6隻 |
| 練習潜水艦 | 2隻 | 2隻 |
| 合計 | 24隻 | 30隻 |
つまり、通常型潜水艦を原潜に置き換えるのではなく、現在の22隻体制を維持したうえで原潜を追加する「増強案」です。
なぜ6隻なのか?
もちろん、6隻という数字に政府が決定した根拠があるわけではありません。
一つの考え方として、潜水艦は保有しているすべての艦を常時作戦行動に投入できるわけではないことが挙げられます。
整備や修理、訓練、乗員教育などが必要になるためです。
そのため、2~3隻程度の原潜を導入しただけでは、継続的な遠洋展開能力を構築するのは難しい可能性があります。
一方で、10隻以上の原潜を保有するとなれば、建造費だけでなく、原子力関連施設、整備設備、乗員教育、原子力人材の確保など、非常に大きな負担が発生します。
そこで、仮に導入規模を考えるなら、
| 保有数 | 想定される位置づけ |
|---|---|
| 2~3隻 | 技術・運用面を含めた限定的な導入 |
| 4隻 | 限定的な実戦運用 |
| 6隻 | 本格運用を目指す一つの規模 |
| 8隻 | 遠洋展開能力をさらに強化 |
| 10隻以上 | 大規模な原潜部隊 |
といった考え方ができます。
「通常型22隻+原潜6隻」が一つの案
日本が原子力潜水艦を導入する場合、必ずしも通常型潜水艦を減らす必要はありません。
通常型潜水艦は、日本周辺の海峡や沿岸海域などでの待ち伏せ・警戒監視に強みがあります。
一方、原子力潜水艦は、長期間・長距離にわたる高速航行や遠洋展開に適しています。
つまり、
通常型潜水艦=日本周辺海域
原子力潜水艦=遠距離・長期間の展開
という役割分担が考えられます。
この場合、
通常型22隻+攻撃型原潜6隻+練習潜水艦2隻=30隻
という体制になります。
もちろん、これは現時点で政府が決定した計画ではなく、あくまで将来の防衛力を考えるうえでの一つの試算です。
今後、原子力潜水艦の導入が本格的に議論されることになれば、「導入するかどうか」だけでなく、何隻導入するのか、通常型潜水艦をどう位置づけるのか、どのような任務を担わせるのかが重要な論点になりそうです。
