2016年8月11日、尖閣列島の北西67kmの公海上で中国漁船「ミンシンリョウ05891」とギリシア船籍貨物船「ANANGEL COURAGE」(約10万トン)とが衝突し、中国漁船は沈没し、中国人船員が海で漂流、うち6名を日本の海上保安庁巡視艇が救助した。
ギリシア船から連絡を受けた日本の海上保安庁が現場に巡視艇と航空機を派遣していた。
8月6日から尖閣列島接続水域には15隻の中国海警局船が侵入していたが、なぜ自国の船員を救助しなかったのか?
中国のシナリオとは
中国海警局船が現場で救助活動をすると、日本の海上保安庁の巡視船と接近し、管轄を巡って、対峙することになる。そこで、中国海警局船が引きさがれば、中国国内的にメンツが立たない。
逆に、中国海警局船が現場に留まれば、日本の防衛大臣は自衛隊に海上警備行動を発令し、護衛艦が出撃する。この時点で、中国海警局船が引きさがれば、中国は国際的にも日本の自衛隊に屈服した印象を与える。
引き続き、中国海警局船が現場に留まれば、日本の護衛艦や海保巡視船と対峙することになり、数的優位を保てない。また、中国海警局船が拿捕される可能性もある。それを避けるためには中国海軍軍艦を出撃させざるを得ない。
そうすると、日本の内閣総理大臣は、自衛隊に防衛出動を発動する。海上警備行動は警察官的な意味合いなので、武器の使用は正当防衛に限られる。しかし、防衛出動になると、自衛隊法88条により「わが国を防衛するため、必要な武力を行使」することができる。
中国軍艦が護衛艦にレーダー照射をしたり、日本の領海に侵入し「尖閣は中国領」と宣言した段階で中国軍が尖閣の占領の意思を示したとして、武力行使できる。
尖閣周辺には5隻の海自の潜水艦が展開しており、1隻当たり22発、5隻合計で110発の魚雷攻撃ができる体制にある。中国海軍は20~30隻程度しか尖閣に展開できないと予想され、1時間以内に中国海軍は全滅する。
中国海警局船の撤退は見事な作戦だ
現時点で中国軍が日本の自衛隊に勝つ確率は0%である。中国軍はそのことを認識しているから、日本の海上保安庁巡視船との小競り合いを避けて、撤退したのだ。
勝つ見込みのない作戦はしないという、見事な撤退だ。
旧日本軍は勝見込みのない出撃をして補給線を保てなかった。
武装漁民による尖閣占領作戦はありえない
政治的メッセージのため武装漁民が尖閣に上陸する可能性はある。しかし、軍事的に尖閣を占領する場合、中国軍の方が弱いので、武装漁民を上陸させて、その保護名目に中国海軍が出撃するというシナリオはありえない。
なぜなら、尖閣周辺には平時においても海自潜水艦が2~3隻展開しており、武装漁民が尖閣に上陸したなら海自潜水艦は5隻まで増強される。5隻の潜水艦の魚雷は合計で100本以上になる。命中率は6~8割なので、中国軍艦が60隻以下なら2時間で中国軍は全滅する。
したがって、もし、中国軍が尖閣を占領する気なら、海自の潜水艦が2~3隻しかいない平時に、艦艇100隻~200隻で上陸する。海自潜水艦の3隻の搭載魚雷本数は合計で約60本なので、全魚雷を発射しても、50隻程度しか中国船を撃沈できないからだ。
孫子の兵法には「弱い敵が強い敵に勝つのは奇襲と待ち伏せしかない」と書いている。つまり、中国軍は自衛隊より弱いので、奇襲するはずだ。
漁民を上陸させて、自衛隊に攻撃準備時間を与えるのは、中国軍に不利な作戦だ。
今後の展開
中国政府は、日本との武力衝突の可能性が低いと判断すれば、再び尖閣接続水域に侵入してくる。中国政府は、日本の海上保安庁巡視船が中国人船員を救助したことをなんとも思っていない。表面上は謝意を表してしも、本音では、感謝していない。
そもそも、中国政府高官は、他国から親切にされたことに感謝して政策を変更することはない。もしそんな常識的な中国の政治家がいたなら、すぐに失脚してしまう。したがって、中国共産党幹部には常識的な政治家はいない。
今回の中国海警局船の撤退は、考えられた冷静な対応で、中国軍は侮れないと感じた。戦前の日中戦争では、こういう中国軍の撤退に、日本軍は中国軍を侮って、中国大陸内部まで戦線を拡大してしまった。
戦争において一番難しいのが、撤退することだ。今の中国軍はそれができている。戦前の日本軍は撤退できずに戦線を拡大して自滅した。